認知の歪みとは|10 種類の一覧と、思い込みをほどく 7 つのコラム
執筆 kokoro編集部・kokoro-link.com 編集部
「あの一言、嫌われたのかもしれない」「今日は全部だめだった」。頭の中で自動的に走るこうした考え方の型を、認知の歪みと呼びます。病気の人だけに起きるものではありません。この記事では、よく挙げられる 10 種類を日常の場面つきで並べ、資料によって数え方が違う理由、当てはまる数の見方、そして気づいたあとに使える 7 つのコラムまでを整理します。
同僚から届いた返信が、いつもより一行だけ短い。それを何度も読み返して、嫌われたのだろうかと考えてしまう方もいるのではないでしょうか。
会議で一度だけ言葉に詰まった。それだけなのに、帰り道には「今日は全部だめだった」に変わります。褒められた言葉のほうは「気を遣ってくれただけ」と片づけて、指摘されたことだけが夜まで残ります。「本当はもっとやれるはずなのに」という声が、朝から頭のどこかで鳴っている日もあります。
こうした考え方の型には、心理学の中で名前があります。認知の歪みです。
やっかいなのは、これが考えた末の結論ではなく、反射に近い速さで出てくることです。気づいたときには、もう結論が出ています。だから「もっと前向きに考えよう」では止まりません。そのまま何年も走らせていると、出来事の見え方そのものが少しずつ寄っていきます。同じ一日でも、自分の落ち度だけが記憶に残り、うまくいったことは数に入りません。積み重なった先で削られるのは、自分への評価と、休むかどうかを決める判断です。
この記事では、よく挙げられる 10 種類を場面つきで並べたあと、当てはまる数の見方と、気づいたあとに使える手順までを整理します。
認知の歪みとは
認知の歪みとは、出来事の受け取り方に、いつも同じ方向のクセが出ることを指します。病気の人にだけ起きるものではありません。健康な人を対象にした調査でも、平均して 1 個から 2 個は当てはまります。
同じ出来事に出会っても、ある人は「相手の機嫌が悪かったのだろう」と受け取り、別の人は「自分が何かしたに違いない」と受け取ります。どちらも本人にとっては、考えた末の結論というより、勝手に浮かんできた最初の一言に近いものです。この最初の一言を自動思考と呼び、そこに繰り返し出てくる偏りを認知の歪みと呼びます。この考え方を治療として組み立てたのは、アーロン・ベックという精神科医でした。厚生労働省の治療者向けマニュアルには、1970 年代にうつ病への精神療法として開発された、と書かれています。
では、どのくらい多くの人に当てはまるのでしょうか。認知の歪み尺度を検証した研究では、治療を受けていない 225 人と、うつ病と診断された 100 人の得点が並べられました。平均は 58.5 点と 82.9 点。差ははっきり出ていますが、どちらの群にも歪みは並んでいます。同じ研究で、治療を受けていない人でも平均 1.66 個の歪みに当てはまっていました。この研究が使った一覧は 10 項目です。そのうち 1 個か 2 個は、治療を受けていない人にも当てはまっていた、ということになります。
自分の考えに歪みを見つけたとしても、それは異常が見つかったというしるしではありません。一つも当てはまらない人を探すほうが、おそらく難しいはずです。
認知の歪みの 10 種類
ここから並べる 10 種類は、病名でも症状でもありません。同じ出来事を前にしたときに、受け取りがどの方向へずれるか。そのずれ方を 10 通りに分けた一覧です。整理したのは、精神科医のデビッド・バーンズ。国立病院機構の医療センターが患者向けに配っている資料も、同じ枠組みを使っています。
自分がどれを使いやすいかは、人によってかなり偏ります。10 個すべてが動く人はほとんどいません。読みながら、心当たりがあるものに印をつけるつもりで見てみてください。
国立病院機構鳥取医療センターの資料にある訳語にそって、一つずつ挙げます。
- 全か無か思考: 完璧にできなければ失敗と同じだと感じます。提出した資料に一箇所だけ直しが入ると、その日の仕事全部がだめだったように思えます。
- 一般化のしすぎ: 一度うまくいかなかったことを「いつもこうだ」に広げます。商談が一件流れただけで、自分にはこの仕事が向いていないという結論まで一気に進みます。
- 心のフィルター: 良かったことが十件あっても、悪かった一件だけが残ります。三十分の面談のうち、指摘された二分だけを何度も再生してしまいます。
- マイナス化思考: 良い出来事のほうを、価値のないものとして打ち消します。「よくやった」と言われても、「あれは気を遣ってくれただけ」で片づきます。
- 結論の飛躍: 十分な根拠がないまま、悲観的な結論に飛びます。相手の考えを決めつける形(心の読みすぎ)と、まだ起きていないことを決まったこととして扱う形(先読み)の二つがあります。
- 拡大解釈と過小評価: 自分の失敗は実物より大きく、自分の成功は実物より小さく見えます。同じ規模のミスでも、他人がしたときには「よくあること」で済みます。
- 感情的決めつけ: 「そう感じる」ことを、「そうである」証拠として扱います。不安だから危険だ、気まずいから嫌われている、という順番で結論が決まります。
- すべき思考: 「〜すべき」「〜して当然」で自分と他人を採点します。休んでいる時間にも「今こうしているべきではない」が割り込んできます。
- レッテル貼り: 出来事ではなく、自分自身に名前をつけます。「うまくいかなかった」が「自分は無能だ」に置き換わります。
- 自分への関連づけ: 場の空気が悪いのは自分のせいだと考えます。会議で誰かが不機嫌そうにしていると、原因を自分の中に探しはじめます。
このうち二つは、別の記事で一本ずつ扱いました。一般化のしすぎが長く続くと、何をしても結果は変わらないという感覚が固定されることがあります。その感覚が固定されたあとに何が起きるかは、「どうせ無駄だ」と感じて動けなくなる仕組みを書いた記事にまとめています。
すべき思考には、働く人に特有の重さが出ます。完璧主義には二つの側面があると考えられています。高く目指す側と、「できていないと思われるのが怖い」という側です。43 件の研究をまとめた完璧主義と燃え尽きのメタ分析(合計 9,838 人)では、後者のほうが燃え尽きと強く結びついていました。強さは、中くらいから大きい範囲です。責任のある立場ほど、後者は増えやすいものです。消耗が進んだときに何が起きるかは、真面目に働いてきた人がなぜ消耗するのかを整理した記事にまとめました。
では、この型はどこで身についたのでしょうか。生まれつきの感じやすさ、育つ過程で繰り返し起きたやりとり、大人になってからの経験。どれか一つが原因というより、重なって残っていくものだと考えられています。
ここで一つだけ、先に書いておきたいことがあります。育った環境の影響を認めることと、親を責めることは、別の作業です。何がいつ身についたのかを確かめても、誰かを加害者にする必要はありませんし、今の関係を変える必要もありません。育った家庭と今の生きづらさのつながりは、育った家庭から生きづらさの根を見つめなおす記事で詳しく扱っています。
ところで、いま並べた 10 という数は、誰が数えても 10 になるわけではありません。
なぜ資料によって「10 種類」の中身が違うのか
「認知の歪みは 10 種類」と書いてある資料は多いのですが、10 という数字そのものが決まっているわけではありません。変わるところは二つあります。いくつに分けるかという数と、どこで線を引くかという区切り方です。
たとえば、認知の歪み尺度の日本語版は、日本語で信頼性と妥当性が確かめられています。この尺度も 10 の因子でできていますが、中身は先ほどの一覧と一致しません。心の読みすぎと、最悪の結果を思い浮かべる破局視が別々の項目として立っていて、代わりに拡大解釈と過小評価が入っていません。
kokoro-link の認知行動療法の全体像を整理した記事でも、先読みと心の読みすぎを別々に並べています。今回の一覧では、この二つをまとめて結論の飛躍と呼びました。どちらも成り立つ分け方で、まとめるか分けるかの違いです。
もっと細かく分ける立場もあります。臨床心理学者の Alice Boyes は、Psychology Today に寄せた記事で 50 種類を並べました。
日本の公的な資料でも、数は揃っていません。厚生労働省が患者向けに公開しているうつ病の認知療法・認知行動療法の資料が挙げているのは、7 つです。感情的きめつけ、選択的注目、過度の一般化、拡大解釈と過小評価、自己非難、0 か 100 か思考、そして自分で実現してしまう予言。最後の一つは、先ほどの 10 種類には入っていません。否定的な予測をして行動を控えた結果、本当にそのとおりになり、予測がますます確からしく感じられる、という悪循環を指します。
呼び方も違います。この資料は「認知の歪み」ではなく「認知のかたより」と書いています。同じ厚生労働省でも、治療者向けのマニュアルのほうは「認知の偏り」「認知の歪み」を使っているので、患者に渡す資料の側だけ、言葉が置き換えられていることになります。
つまり、7 に収める資料も、10 の一覧も、50 に分ける立場もあります。数が違うのは、指している現象が違うからではありません。どこまで細かく切り分けるかの方針が違うだけです。
一覧は、自分の考えに名前をつけて扱いやすくするための道具です。名前がついたところで考えが消えるわけではありませんが、名前のないままよりは、少しだけ手をかけやすくなります。
いくつ当てはまったら、気にしたほうがいいのか
当てはまった個数で線を引くことはできません。目安になるのは、どのくらいの頻度で出てくるか、どのくらい強く信じ込んでいるか、時間が経ってから見直せるかどうか。この三つのほうが、数より役に立ちます。
先ほどの日本語版尺度は、健康な人 237 人と、うつ病の診断を受けた人 39 人を対象に検証されています。抑うつの程度を測る PHQ-9 との相関は 0.44 でした。0.44 という値は、関係はあるけれど強くはない、という程度の結びつきです。抑うつの重さは、考え方以外の事情にも左右されます。
もう一つ、見落とされやすい点があります。歪みが見つからない場合もあります。厚生労働省の治療者向けマニュアルには、自動思考に認知の偏りが見当たらないときは、考え方を組み直す作業ではなく問題解決に進む、と書かれています。考えが現実をそのまま写しているなら、手を入れるべきなのは考え方ではなく、状況のほうだからです。
状況のほうが重い場面は、実際に多くあります。令和 5 年の労働安全衛生調査では、仕事や職業生活で強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者は 82.7% でした。10 人のうち 8 人以上です。男性は 84.0%、女性は 81.1%。内容の一位は「仕事の失敗、責任の発生等」で、39.7% を占めていました。
責任が重くて眠れない人に「それは認知の歪みです」と伝えるのは、たいてい的を外しています。順番としては、状況のほうを先に見ます。仕事量を減らせるのか、期限を動かせるのか、誰かに渡せるのか。そこに手がつけられないと分かったときに、考え方の側を見ていきます。
では、考え方の側を見ると決めたとき、手元では何をするのでしょうか。
思い込みをほどく 7 つのコラム
頭の中だけで考え直そうとすると、同じところを何周もします。紙に書き出すと、その考えを支えている事実が思ったより少ないことが、目で見て分かります。厚生労働省の患者向け資料に載っている 7 つのコラムは、そのための手順です。
紙を七つに区切って、上から順に埋めます。冒頭に出てきた「返信が一行だけ短い」場面を例に、一段ずつ通してみます。
- 1 状況: いつ、どこで、何があったかを書きます。資料は「情景がありありと浮かぶくらい」具体的に、ある一瞬に絞るよう求めています。例:「火曜の午後 3 時、共有チャットで送った確認に、同僚から『了解です』とだけ返ってきた」
- 2 気分: そのとき感じたものを、一語ずつ書きます。憂鬱、不安、怒り、罪悪感、恥、悲しい。それぞれに強さを % でつけます。例:「不安 70%、悲しい 40%」
- 3 自動思考: そのとき頭に浮かんだ言葉を、浮かんだまま並べます。「嫌われた」「先週の件で怒っている」「もう相談しづらい」。並べ終わったら、いまの気分をいちばんよく説明している一つに◎をつけます。資料はこれをホットな思考と呼んでいます
- 4 根拠: ◎をつけた考えを裏づける事実だけを書きます。ここが山場です。「きっとそうだろう」は想像なので入れません。例:「返信が『了解です』の五文字だった」
- 5 反証: その考えと食い違う事実を書きます。例:「先週の返信は三行あった」「今週は月末で全員の返信が短い」「昨日は雑談に応じてくれた」
- 6 バランス思考・プラン: 4 と 5 を「しかし」でつないで、一つの文にします。例:「返信は五文字だった。しかし月末で全員が短く、昨日は雑談に応じてくれた。嫌われたかどうかは、いまの材料では決められない」
- 7 心の変化: もう一度、2 で書いた気分の強さを % で測り直します。例:「不安 70% → 40%」
6 段目の書き方は、三通りあります。根拠と反証から作るのが一つめで、いま通したのがこれです。
二つめは、この記事で並べた 10 種類を使うことです。◎をつけた考えがどれに当てはまるかを探し、「これは一般化のしすぎだ」と名前をつけてから、6 段目を書き直します。
三つめは、質問で視点を動かすことです。「家族や友人が同じことを考えていたら、自分は何と言うだろう」。この一問を挟むと、書ける文が変わります。
最初の考えを取り消す必要はありません。
では、どのくらい効くのでしょうか。うつ病の治療研究 45 件をまとめた分析(合計 3,382 人)に、比較の結果が出ています。この書き出しの作業だけを受けた人たちは、順番待ちのまま何も受けなかった人たちより、抑うつがはっきり軽くなっていました。
もう一つ、意外な結果があります。認知行動療法をひととおり受けた人たちと比べても、はっきりした差は出ませんでした。プログラム全体に通わなくても、この作業ひとつから始める価値はありそうです。
ただ、書こうとして手が止まることがあります。紙に向かった途端に、同じ考えが頭の中で回りはじめます。一行目が埋まらない日が続いているなら、思考が止まらない仕組みと距離の取り方を書いた記事を先に読んだほうが早いかもしれません。
七段目まで書き終えても、気分が大きく変わらない日もあります。それでも、書く前より少しだけ、考えと自分のあいだに隙間ができます。
歪みを探すことが、自分を責める材料になっていないか
10 種類を覚えたあと、自分の考えに片っ端から名前をつけはじめる方がいます。見つけるたびに自分を採点していると、その作業自体が新しいすべき思考に変わっていきます。
「また心の読みすぎをした」「こんな考え方をする自分はまだだめだ」。名前をつける手順が、いつのまにか反省会になっています。
347 人を対象にした研究では、自分を批判する方向の反すうが、完璧主義と自己評価の低さをつなぐ役割を果たしていました。モデル全体で、自己評価のばらつきの 51% が説明されています。厳しい基準を持っていること自体よりも、その基準に届かない自分を繰り返し点検することのほうが、自己評価を削っていました。自己評価がどう下がっていくのかは、自己肯定感が低くなる背景を書いた記事でも扱っています。
目安は一つだけです。名前をつけたあと、少し楽になっているかどうか。楽になっていれば、道具として働いています。苦しくなっているなら、その日は一覧を閉じたほうがいい場面です。
10 種類は、自分を採点するための項目ではありません。同じ場面で同じ結論に飛びそうになったとき、一拍だけ間を置くための目印です。
返信が一行だけ短かった日に、「嫌われた」のほかにも書ける行がある。それを思い出せれば、十分です。
Frequently Asked
よくある質問
認知の歪みは、誰にでもあるものですか?
はい。治療を受けていない人を対象にした調査でも、平均して 1 個から 2 個の歪みに当てはまっていました。うつ病の診断を受けた人のほうが得点は高くなりますが、片方がゼロで片方だけにある、という分かれ方はしていません。歪みがあること自体は、心の不調のしるしではありません。出てくる頻度が上がり、強く信じ込むようになり、時間が経っても見直せなくなってきたときに、はじめて負担として現れてきます。
いくつ当てはまったら病気ということですか?
個数で線を引く基準はありません。認知の歪みは診断名ではなく、考え方の傾向を整理するための分類です。うつ病や不安障害の診断は、症状の種類と続いている期間、生活への支障をもとに医師が行います。10 個のうち何個当てはまったかではなく、その考えが毎日出てくるのか、どのくらい強く信じているのか、あとから見直せるのかを目安にしてみてください。気になる状態が 2 週間以上続いているときは、医療機関に相談する目安になります。
認知の歪みは治りますか?
「なくす」というより「気づいて、選び直せるようになる」に近い変化です。考え方を組み直す作業だけを取り出した 45 件のランダム化比較試験の分析でも、待機していた人たちと比べてはっきりした改善が確認されています。ただし、同じ考えが二度と浮かばなくなるわけではありません。浮かんだあとに結論まで一気に走らず、一度止まれる回数が増えていきます。
認知の歪みのチェックは無料でできますか?
厚生労働省が公開している「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」は、誰でも無料で読めます。7 つのコラムの用紙と記入例、それに「認知のかたより」7 項目の一覧が載っていて、印刷してそのまま使えます。ただし点数を出す検査ではありません。浮かんだ考えの根拠と反証を書き出していく用紙です。点数を出すタイプの尺度は研究のために作られているので、自分で自分を判定する道具としては向いていません。
認知の歪みの原因は何ですか?
一つに絞ることはできません。生まれつきの感じやすさ、育つ過程で繰り返し起きたやりとり、大人になってからの経験。この三つが重なって残っていくと考えられています。育った家庭が関わっている場合もありますが、影響を認めることと、親を責めることは別の作業です。何がいつ身についたのかを確かめても、今の関係を変える必要はありません。
認知の歪みと発達障害は関係がありますか?
認知の歪みは診断とは別の枠組みで、特定の障害と結びついた概念ではありません。誰の頭にも起こる考え方のクセを分類したものです。発達障害の特性がある方が、周囲とのすれ違いを重ねた結果として「自分への関連づけ」や「レッテル貼り」が強く出ることはあります。ただし、歪みが多いことが診断の根拠になるわけではありません。診断について気になる場合は、医療機関で相談してください。
References
参考文献
Colophon / 執筆と監修
Written by
kokoro編集部
kokoro-link.com 編集部
心理学の知見を、読む人の日常に近い言葉に翻訳して届けるチームです。記事は公認心理師・臨床心理士の監修のもとで制作していきます。
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