認知行動療法とは|やり方・効果・日本で受ける方法の全体像
執筆 kokoro編集部・kokoro-link.com 編集部
認知行動療法(CBT)は、出来事に対して瞬間的にうかぶ考えと、そこから続く気分・身体・行動のつながりを整理し、その考えを事実に照らして確かめ直していく心理療法です。「前向きに考える」訓練ではありません。うつ病や不安症への効果は多くの研究で確かめられている一方、日本の保険診療で受けている人は年間 1 万人に届いていません。仕組みからやり方、受け方までを一度に整理します。
心療内科で「認知行動療法という方法があります」と言われて、名前だけを持ち帰った帰り道。
産業医との面談で勧められたけれど、「考え方を変えろ」と言われた気がして、少し反発してしまった夜。
書店で自習帳を手に取ったものの、書き込む欄の多さを見て、そっと棚に戻した週末。
「自分の考え方が悪い、ということなんだろうか」
そんなふうに感じた方も、いるのではないでしょうか。
認知行動療法(cognitive behavioral therapy、略して CBT)は、日本でよく名前を聞く心理療法です。それでいて、実際にそこで何をするのかは、あまり伝わっていません。
この記事では、認知行動療法がどういう作業なのか、効果はどこまで確かめられているのか、そして日本ではどこで受けられるのかまでを、順に整理します。
認知行動療法とは
認知行動療法が扱うのは、出来事そのものよりも、そのあとに起きることです。一瞬でうかぶ考え、続いて動く気分、身体の反応、そして行動。この四つのつながりをほどいて、動かせる場所を探していきます。
国立精神・神経医療研究センターの認知行動療法センターによる説明では、認知行動療法は「認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法」と定義されています。認知とは、ものの受け取り方や考え方のことです。
たとえば、金曜の夕方に上司から「ちょっと来て」とだけメッセージが届いたとします。ここから四つが連鎖します。
- 考え: 「何かミスをした。評価が下がる」
- 気分: 不安、焦り
- 身体: 心拍が上がる、胃のあたりが重くなる
- 行動: 資料を何度も見返す、週末じゅう考え続ける
このうち「何かミスをした」にあたる部分を、認知行動療法では自動思考と呼びます。考えようとして考えたのではなく、頭のなかで勝手に再生される短いナレーションのように、ひとりでに流れてくるからです。
四つはどこか一つが動くと、他も一緒に動きます。だからこそ、変えやすいところから手をつけられます。厚生労働省の研究班がまとめたうつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)も、この見取り図を土台にしています。
なお、最初の関門が「気分」の欄になる方は少なくありません。不安なのか、落胆なのか、怒りなのか。自分の感情に名前をつけるところで止まってしまうときは、自分の感情がわからないと感じるときを先に読んでいただくほうが、進めやすいかもしれません。
「考え方を前向きにする方法」なのか
一見、認知行動療法は「暗い考えを明るい考えに置き換える訓練」のように思われがちです。しかし実際の作業は、置き換えよりも確認に近いものです。その考えを支える事実と、支えない事実を並べる。その結果として、考えのほうが動きます。
厚生労働省の研究班による治療者用マニュアルは、この治療の特徴を「現実に目を向けた検証を基本とする点」と書いています。面接で話し合ったことを実生活で試すホームワーク(宿題)が必須の課題とされているのも、同じ理由からです。
先ほどの「何かミスをした。評価が下がる」を、「きっと大丈夫」に言い換えても、たいてい効きません。根拠がないからです。代わりに確かめるのは、こういうことです。
- 「ちょっと来て」と呼ばれて、実際にミスの指摘だったのは、これまで何回のうち何回か
- ミスの指摘だったとき、そのあと評価は実際にどう変わったか
- 同じメッセージを同僚が受け取っていたら、自分はその人に何と言うか
並べてみると、「ミスかもしれないし、別件かもしれない。どちらにしても週明けには分かる」あたりに落ち着くことがあります。明るい考えではありません。ただ、週末を丸ごと持っていかれる考えでもなくなっています。
ここが、身構えなくていい理由でもあります。認知行動療法は、あなたの考え方を否定したり矯正したりする作業ではなく、根拠のない断定を一度ほどいて、事実に合った幅のある見方を取り戻す作業です。自分の考え方そのものに自信が持てないときは、自己肯定感が低い原因のほうから読み進めていただいても構いません。
自動思考と、考えのクセ
扱うのは性格そのものよりも、状況ごとに繰り返し出てくる考えの型です。同じような場面で、いつも同じ結論に飛ぶ。その型が自分で見えてくると、次に同じ場面が来たときに、少しだけ間が取れます。
よく出てくる考えのクセ
精神科医の大野裕先生が監修するこころのスキルアップ・トレーニングでは、この考えの型を整理する練習ができます。よく挙がるものを並べます。
- 白か黒か: 完璧にできなければ、失敗したのと同じだと感じる
- 先読み: まだ起きていないことを、もう決まったことのように扱う
- 心の読みすぎ: 相手の短い返信から、嫌われたと結論づける
- すべき思考: 「〜すべき」「〜して当然」で自分と他人を採点する
- 一般化のしすぎ: 一度うまくいかなかったことを、「いつもこうだ」に広げる
- 自分への関連づけ: 場の空気が悪いのは自分のせいだと考える
いくつか当てはまったとしても、それは弱さの証拠ではありません。どれ一つ当てはまらない人のほうが、おそらく珍しいはずです。
では、この型はどこから来るのでしょうか。生まれ持った気質、育った環境、そのあとに積み重なった経験。この三つが、どれも少しずつ関わっていると考えられています。
気質は、刺激に対する敏感さのように、幼いころから見られる個人差です。育った環境のほうは、家のなかで安心して間違えられたかどうかが効いてきます。失敗すると空気が変わる家で育てば、「失敗してはいけない」は生き延びるための現実的な結論でした。そして積み重なった経験、つまり大人になってからの職場や人間関係が、その結論を上書きしたか、補強したかで今の型が決まります。
育った環境の影響を認めることと、親を責めることは、別の作業です。過去のどこで何が身についたのかを見にいくのは、責任の所在を決めるためではありません。いま繰り返している型を、いまの生活に合うかたちへ調整するためです。関係を絶つ必要も、誰かを加害者にする必要もありません。このあたりを詳しく扱ったのが、育った家庭と生きづらさのつながりの記事です。由来が分かっても、型がすぐに消えるわけではありません。ただ、責める相手を探す作業からは降りられます。
実際のセッションでは、何をするのか
話を聞いてもらう時間だと思って行くと、少し面食らうかもしれません。中心にあるのは、面接そのものよりも、面接と面接のあいだの一週間から二週間です。そこで試したことを持ち寄り、次の一手を決めていきます。
厚生労働省の治療者用マニュアルが示す標準的な構成は、全 16 回から 20 回。おおよそ次の順で進みます。
- はじめの数回: いま困っていることを具体的な場面まで下ろし、取り組む的を決める
- 前半: 一週間の行動と気分を記録し、何をしているときに気分が動くかを見る
- 中盤: 記録をもとに、気分が上向いた行動を少しずつ増やす(行動活性化)
- 後半: 自動思考を書き出し、支える事実と支えない事実を並べる(コラム法)
- 終盤: 調子が崩れる兆しと、そのときに取る手順をまとめる(再発予防)
気づかれたかもしれません。考えを扱うコラム法は、後半に置かれています。先に来るのは行動です。
気分が落ちているとき、まず行動から動かすのには理由があります。落ち込むと活動が減り、活動が減るとうまくいく経験も減って、さらに落ち込む。この輪を止めるには、考えを説得するより、行動を一つ足すほうが速いことがあります。
行動活性化だけを取り出した治療でも、同じくらいの結果が出ます。イギリスで行われた大規模な比較試験(COBRA)では、経験の浅いスタッフが担当した行動活性化が、熟練した心理療法家による認知行動療法に劣らない効果を示しました。しかも費用は安く済みました。
「何をやっても無駄だ」という感覚が強いときほど、この順番は効いてきます。その感覚がどう作られるのかは、「どうせ無駄だ」と感じて動けなくなる仕組みで扱っています。
認知行動療法は、どのくらい効くのか
効果は、心理療法のなかでもっとも大規模に検証されてきました。ただし「他のどの心理療法よりも優れている」とまでは言えません。誠実に言えるのは、確かに効く、そして効果が長持ちしやすい、というところまでです。
2023 年にWorld Psychiatry 誌へ発表された総まとめでは、409 件の比較試験、のべ 52,702 人分のデータが統合されました。結果は三つに整理できます。
- 何もしない状態や順番待ちと比べると、うつの症状ははっきり軽くなる
- 対人関係療法など他の心理療法と比べると、明確に上回るとは言えない
- 薬物療法と比べると、短期の効果は同程度で、長い目で見ると認知行動療法のほうが持続しやすい
三つめが、生活のうえではいちばん大きいところです。薬をやめたあとに戻りやすいかどうかが、その後の負担を大きく左右するからです。
日本での検証もあります。慶應義塾大学などのグループによる試験では、薬物療法で十分に良くならなかったうつ病の方に、認知行動療法を上乗せしました。16 週の時点で症状が軽くなり、その効果は 12 か月後も保たれていました。
対象となる病気も広がってきました。うつ病のほか、不安症、強迫症、社交不安症、パニック症、心的外傷後ストレス症、摂食障害、不眠症などで有効性が示されています。職場のストレスをきっかけに起こる適応障害でも、心理療法は治療の柱の一つに数えられます。
一方で、限界もあります。効果があるというのは平均の話で、全員に効くわけではありません。途中でやめる方も一定数います。書く作業が続かない、宿題が負担に感じる、といった相性の問題は現実に起こります。
日本では、どこで受けられるのか
保険診療で受けられます。ただし条件が細かく決まっていて、実際に受けている人の数は、名前の知られ方に比べるとかなり少ないのが現状です。
2026 年度の診療報酬改定で、認知療法・認知行動療法は三つの区分に整理されました。
- 医師による場合: 480 点
- 医師と看護師が共同して行う場合: 350 点
- 公認心理師による心理支援を伴う場合: 330 点
三つめは、この改定で新しく入った区分です。これまで保険の点数がつくのは医師と看護師に限られていて、実際に認知行動療法を担ってきた心理職は算定の外に置かれていました。届出には、認知行動療法を行う医療機関の外来に 2 年以上勤務し、治療の面接に 60 回以上同席した経験などが求められます。
区分にかかわらず、共通の条件もあります。
- 1 回の診療時間が 30 分を超えること
- 一連の治療につき 16 回まで(不眠症は 8 回まで)
- 対象は、うつ病等の気分障害、強迫性障害、社交不安障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害、神経性過食症、不眠症
点数は 1 点あたり 10 円なので、医師が行う場合の窓口負担は 3 割で 1,440 円ほど。ここに初診料や再診料が加わります。
注意していただきたいのは、対象の一覧に燃え尽き症候群や適応障害が入っていないことです。この二つの状態では、保険の認知行動療法として算定できません。心療内科や精神科で心理的な支援を受けること自体は可能ですが、名目としては別の枠組みを使う形になります。
ここからが、あまり語られない部分です。
心身医学誌に 2025 年に発表された調査は、レセプトのデータベースを使って、全国で保険診療の認知行動療法が何回行われたかを数えました。最も多かった 2014 年度が 44,888 回、2022 年度は 35,231 回。対象となる病気が増え、算定できる職種も広がってきたにもかかわらず、回数は減っています。
地域による差は、さらに極端です。2022 年度、人口 100 万人あたりの回数が最も多かったのは岡山県で 2,834 回。その一方、青森、秋田、山形、新潟、富山、福井、奈良、山口など 14 の県では、県内の年間の算定回数が 10 回に届きませんでした。届出をしている医療機関は全国に 742 施設あり、どの都道府県にも 2 か所以上は存在します。それでも、実際にはほとんど行われていない県が残っています。
人数で見ると、差はもっとはっきりします。同じ調査によれば、2021 年度に保険診療で認知行動療法を受けた患者は 8,680 人。厚生労働省の患者調査では、認知行動療法の主な対象となるうつ病などの気分障害で医療機関にかかっている人は、2017 年時点で 125 万人と報告されています。単純に並べれば、およそ 140 人に 1 人です。
理由の一つは、採算です。医療経済研究機構がまとめた報告によれば、認知行動療法は 1 時間で最大 2 人にしか算定できないのに対し、一般的な通院精神療法は同じ 1 時間でより多くの人を診られます。時間あたりの収入で比べると、認知行動療法を選ぶほど医療機関の経営が苦しくなる構造でした。1 回あたりの報酬額そのものも、イギリスなどと比べて低く抑えられています。
受けにくさの原因は、患者側の関心の低さではなく、提供する側の条件のほうにあります。名前だけが広く知られていて、実物にはなかなか手が届かない。それが、いまの日本の認知行動療法の姿です。
すぐには受けられないとき、そのあいだにできること
順番を待つあいだ、あるいは近くに受けられる場所がないとき、手ぶらで待つ必要はありません。公的な機関が、そのまま使える教材を無料で公開しています。
厚生労働省の研究班がまとめたうつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)は、患者さん自身が読むために作られた冊子で、誰でも読めます。治療のなかで実際に使う記録用紙も入っています。
こころのスキルアップ・トレーニングは、コラム法をウェブ上で練習できるサイトです。紙に書くのが億劫なとき、こちらのほうが続くという方もいます。近くで受けられる医療機関を調べるときは、国立精神・神経医療研究センターの認知行動療法マップが使えます。
自習の効果についても、先ほどの 409 件のまとめのなかで検討されています。認知行動療法は、自分で進めるセルフヘルプの形でも一定の効果を示しました。ただし、メールや電話で誰かが伴走する形のほうが、効果は大きく出ます。一人で完結させようとせず、通っている医療機関や職場の相談窓口に「こういう記録をつけています」と一言伝えておくだけでも、伴走のある形に近づきます。
一人で始めるなら、コラム法よりも行動のほうが取りかかりやすいかもしれません。一週間、何をした日に気分が少し上がったかだけを記録する。それだけでも、次に増やす行動の見当がつきます。
そのうえで、次のような状態が続いているときは、記録より先に相談を検討していただくほうが安全です。
- 二週間以上、ほとんど毎日、気分が落ち込んでいる
- 眠れない日、あるいは眠りすぎる日が続いている
- 仕事や家事が、以前のようには手につかない
- 自分を傷つけたい気持ちがよぎる
認知行動療法は、特別な才能を必要とする方法ではありません。やっているのは、頭のなかで一瞬で終わってしまう作業を、紙の上でゆっくりやり直すことです。上司からの短いメッセージに「何かミスをした」と決めつけた、あの数秒を、もう一度開いてみる。
開き方は、自分で選べます。一人で試してみてもいいですし、誰かと一緒でもかまいません。急がなくていい。まずは一行、書いてみるところからです。
Frequently Asked
よくある質問
認知行動療法は保険適用ですか。費用はどのくらいかかりますか。
保険診療で受けられます。2026 年度の診療報酬では、医師が行う場合が 480 点、医師と看護師が共同して行う場合が 350 点、公認心理師による心理支援を伴う場合が 330 点と決まっています。1 点は 10 円なので、3 割負担であれば窓口での支払いは 1 回あたり 990 円から 1,440 円ほど。ここに初診料や再診料が加わります。ただし受けられるのは届出をしている医療機関に限られ、対象となる病名も決まっています。届出のない医療機関やカウンセリングルームでも認知行動療法を行っているところはありますが、その場合は全額が自己負担です。
何回くらい、どのくらいの期間で終わりますか。
保険診療では、一連の治療につき 16 回までと決められています。不眠症の場合は 8 回までです。1 回の診療時間が 30 分を超えることも条件になっています。厚生労働省の研究班がまとめたマニュアルが示す標準的な構成は全 16 回から 20 回で、週 1 回から隔週のペースで進めた場合、おおよそ 3 か月から 5 か月かかります。ただしこれは目安です。取り組む問題や進み方によって回数は変わりますし、途中でいったん間を空けて、時期を見て再開する方もいます。
自分ひとりでもできますか。
できます。厚生労働省の研究班による患者さん向けの資料や、精神科医の大野裕先生が監修するこころのスキルアップ・トレーニングなど、無料で使える教材が公開されています。2023 年に発表された 409 件の比較試験のまとめでも、認知行動療法は自分で進めるセルフヘルプの形で一定の効果を示しました。ただし、メールや電話で誰かが伴走する形のほうが効果は大きく出ます。一人で始めるなら、考えを書き出すコラム法よりも、気分が上向いた行動を記録して少しずつ増やしていく方法のほうが、取りかかりやすいことが多いようです。
カウンセリングとは何が違いますか。
カウンセリングは、話を聞いて気持ちを整理する営み全体を指す広い言葉です。認知行動療法は、そのなかで方法と手順がはっきり決まっている一つの型を指します。取り組む的を決め、行動と気分を記録し、面接と面接のあいだに実生活で試す宿題があり、終わりの回数もあらかじめ想定されている。この構造が最大の違いです。話を聞いてもらう時間を期待して行くと作業の多さに戸惑うことがあるのは、このためです。どちらが優れているという話ではなく、いま必要なのが気持ちの整理なのか、決まった手順での練習なのかで、選び方が変わります。
認知行動療法が向かないことはありますか。
効果は多くの研究で確かめられていますが、それは平均の話で、全員に効くわけではありません。書く作業が続かない、宿題が負担に感じる、といった相性の問題は現実に起こります。また、症状が重く、集中して考えることそのものが難しい時期には、まず休養や薬物療法で状態を整えるほうが先になることもあります。うまく進まないときに「自分の努力が足りない」と受け取る必要はありません。方法との相性は誰にでもあります。時期を変える、担当者を変える、別の心理療法を検討するといった選択肢が残っています。
References
参考文献
Colophon / 執筆と監修
Written by
kokoro編集部
kokoro-link.com 編集部
心理学の知見を、読む人の日常に近い言葉に翻訳して届けるチームです。記事は公認心理師・臨床心理士の監修のもとで制作していきます。