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自分を知る

自分の感情がわからない。原因と、改善への手がかり

執筆 kokoro編集部・kokoro-link.com 編集部

感情そのものは動いているのに、それに気づいて言葉にすることが難しい。その状態を、心理学ではアレキシサイミアと呼ぶことがあります。日本の一般住民 927 人を対象にした調査では、7.8% にあてはまりが見られました。この記事では、そうなる三つの背景と、身体の感覚から感情に名前をつけていく手順までを扱います。

「今、どんな気持ち?」。そう聞かれて、すぐに言葉が出てこない。

職場で理不尽なことを言われても、その場では何も感じない。それなのに帰り道の電車で、急に涙が出てくる。

楽しいはずの時間なのに、心のほうが動いていない感じがする。

体調は悪いのに、どこがどうつらいのかを説明できない。

こうした感覚に心当たりのある方も、いるのではないでしょうか。この記事では、感情がわからなくなる三つの背景と、身体の反応から感情に名前をつけていく手順までを整理します。

「どう感じているか」が、うまく言えないとき

感情そのものは、多くの場合ちゃんと動いています。難しいのは、その感情に自分で気づくことと、それを言葉にして人に伝えることです。この二つがうまく働かない状態を、心理学ではアレキシサイミアと呼ぶことがあります。

ギリシャ語で「感情を表す言葉がない」という意味を持つ用語で、日本語では失感情症と訳されます。ただしPsychology Today の解説にもあるとおり、これは診断名ではありません。「持っている人」と「持っていない人」に分かれるものではなく、誰にでも程度の差があって、その幅のどこかに自分がいる、という捉え方をします。

この特性は、トロント・アレキシサイミア尺度(TAS-20)という 20 問の質問紙で測ります。日本語版をつくるときの検証では、1,287 人分の回答を分析したところ、20 問が三つのまとまりに分かれました。「感情がわからない」と一口に言っても、中身は三種類あるということです。

  • 自分の感情に気づきにくい
  • 気づいても、それを言葉にしにくい
  • 関心が自分の内側より、外の出来事に向きやすい

この三つは、人によって出方が違います。「イライラしている」とはわかるのに人にうまく説明できない方もいれば、そもそも自分の中で何が起きているのかを感覚としてつかめない方もいます。どれが強く出るかは、その人次第です。

アレキシサイミア 自己診断テスト

正式な診断ではありませんので、あくまでも自分の傾向を見るための目安として試してみてください。

  • 「どうしたい?」と聞かれると、答えるまでに時間がかかる
  • 気持ちを聞かれているのに、事実の説明や状況の報告になってしまう
  • 怒りや悲しみより先に、頭痛や胃の重さのほうを感じる
  • 感想を求められると、周りの反応を見てから決めることが多い
  • 泣いている自分に、あとから気づく
  • 「楽しかった?」に、正直な答えが出てこない

いくつも思い当たって、少しつらくなった方もいるかもしれません。これらは、これまでの生活のなかで身についてきた感じ方のクセを映しています。

なぜ、感情がわからなくなるのか

背景は大きく三つに分けられます。感情に名前をつける経験が少なかったこと。強いストレスのなかで感情を切り離したこと。そして、生まれつき気づきやすさに幅があることです。

背景1: 感情に名前をつける経験

子どもは、自分の中で起きていることに、自分で名前をつけられません。誰かが「悔しかったね」「心細かったんだね」と言葉を当ててくれることで、少しずつ感情と言葉が結びついていきます。その機会が乏しい環境で育つと、大人になってからも結びつきが弱いままになりやすいと考えられています。

2024 年に発表された24 件の研究をまとめたメタ分析でも、子ども時代の経験と失感情の傾向のあいだに一定の関連が報告されています。目を引くのは、その内訳です。身体的な虐待(r=.16)や性的虐待(r=.13)よりも、感情に応じてもらえなかった経験、いわゆる情緒的ネグレクト(r=.27)のほうが、強く関連していました。殴られた経験よりも、泣いても誰も来なかった経験のほうが、感情に名前をつけにくさと深く結びついていました。

500 名を対象にした別の研究では、影響の出方にも違いが見えています。感情に応じてもらえなかった経験は「気づきにくさ」のほうに、感情を強く否定された経験は「言葉にしにくさ」のほうに、それぞれ結びついていました。

ここで、はっきりさせておきたいことがあります。「親のせい」と「親子関係の影響」は、同じではありません。育った家庭で何が起きていたのかを認識することは、誰かを責めることでも、関係を断つことでもありません。自分の感じ方がどこから来ているのかを知り、扱いを取り戻すための作業です。

感情を出しにくい家庭で育った影響については、アダルトチルドレンという言葉がひとつの入口です。自分の価値を低く見積もる感覚がずっと続いているなら、自己肯定感が低くなる背景のほうから辿ると近いこともあります。

背景2: 強いストレスと、感情の切り離し

感情は、いつも感じていたほうが良いとは限りません。逃げ場のない状況で感じることを一時的に止めるのは、心を守る働きでもあります。

問題は、その状態が長く続いたときです。緊張がほどけない日々のなかでは、切り離したままが標準になっていきます。何を食べても味がしない、うれしいはずの知らせにも心が動かない。数か月前と比べて、明らかに感じ方が薄くなっている。そうであれば、性格の話ではなく、いま置かれている環境のほうを疑ってみる価値があります。

背景3: 生まれつきの、気づきやすさの幅

同じ出来事に触れても、身体がどれくらい反応するか、その反応にどれくらい細かく気づけるかは、人によって差があります。刺激を受け取りやすい気質が語られることは増えましたが、その反対側、内側の変化を捉えにくい側にも同じだけ幅があります。

この幅は生まれつきのもので、努力の量では動きません。気づきにくさの理由は、意志の強さとは別のところにあります。

三つの背景は、多くの場合、重なり合っています。どれか一つに絞り込めなくて当然です。そして重なった結果は、頭より先に身体に出る。

身体のほうが、先に反応している

感情に気づきにくいとき、身体は先に反応していることがあります。日本の一般住民を対象にした調査では、慢性的な痛みを抱えている方ほど、失感情の傾向が高いという結果が出ています。心と身体を切り分けて考えないほうが、実態に近いようです。

福岡県久山町で行われた927 名を対象にした調査では、TAS-20 が 61 点以上、つまり「傾向が強いほう」に入ると判定された方が全体の 7.8% でした。痛みのない群では 4.0%、慢性的な痛みのある群では 10.9%。年齢などを調整したあとでも、失感情の傾向が高い群では慢性痛のオッズが 2.56 倍という結果でした。

数字だけでは遠いので、言い換えます。感情に気づきにくい方のほうが、原因のはっきりしない身体の不調を抱えやすいのです。頭が受け取り損ねた分を、身体のほうが引き受けているような状態です。

性別による差も報告されています。フィンランドの一般住民 1,285 名を対象にした調査で「傾向が強いほう」に入ったのは、男性が 17%、女性が 10%。男性のおよそ 6 人に 1 人という数字です。

「自分の感情がわからない」は、繊細さの話として語られがちな言葉です。ただ実際には、感情を口にする機会が少ないまま働いてきた男性のほうに、より多く見られています。会議では的確に話せるのに、家に帰って「今日どうだった?」と聞かれると答えに詰まる。そうした心当たりも、この範囲に入ります。

仕事の場で何も感じなくなっていく変化は、燃え尽き症候群でも中心的な特徴として扱われます。

身体は、頭より正直です。説明のつかない不調が続いているなら、心のほうで何が起きているのかを、一度だけ疑ってみる価値はあります。

これは、病気なのでしょうか

病名がつくのだろうかと不安になる方は多くいます。ただ、アレキシサイミアは診断がつく病気ではありません。性格の一側面として、程度の幅で捉える考え方が一般的です。それでも、うつや適応障害と重なることは多く、そちらのほうに手当てが必要な場合はあります。

先ほどの久山町の調査で「傾向が強いほう」と判定された方は 7.8%、フィンランドの調査では 13% でした。国や測り方によって幅はありますが、おおよそ 10 人に 1 人前後。40 人が働く職場なら、4 人ほどいる計算です。

一方で、先ほどのメタ分析は、失感情の傾向と精神的な不調全般のあいだに、小さくない関連(r=.44)を報告しています。傾向が強い方ほど、うつや不安、摂食の問題を併せ持ちやすい傾向があります。

見分けるときの目安を挙げます。

  • もともと感じにくかったのか、ある時期から感じなくなったのか
  • 感じにくいのは特定の場面だけか、生活全体か
  • 眠れない、食べられない、体重が落ちたなどの変化を伴っているか

ある時期を境に「何も感じない」が始まり、睡眠や食欲の変化を伴っているなら、うつや適応障害として扱ったほうが近い場合があります。その線引きは、診察のなかで一緒に決めていけます。

特性そのものは、治す対象ではありません。手当てができるのは、重なっているほうの不調です。

感情に名前をつける練習

感情に言葉を当てる作業には、脳の反応を落ち着かせる働きがあるとわかっています。うまく言えなくて大丈夫です。粗い言葉から始めて、少しずつ細かくしていく順番が現実的です。

2007 年の脳画像研究では、目の前の刺激に「怒り」「恐れ」といった言葉を当てるだけで、扁桃体という部位の反応が下がることが確認されました。扁桃体は、危険を察知して警報を鳴らす部分です。言葉にすると、その警報が少し静かになる。感情を言葉にすると落ち着くという経験則に、神経の側から説明がついた研究です。

さらに、感情をどれくらい細かく分けられるかも関係します。同じ「嫌だ」でも、「悔しい」「心細い」「気まずい」と分けられる方ほど、その感情への対処がうまくいきやすいと報告されています。そして、この細かさは生まれつき決まっているものではなく、練習で動きます。

手順は三つです。

  • 身体の感覚から入る。「どう感じているか」ではなく「今、身体のどこに力が入っているか」から始めます。胸が重い、肩が上がっている、喉が詰まる。感情の言葉より先に、身体の言葉のほうが出てきやすいことが多くあります。
  • 快か不快か、強いか弱いかだけで始める。細かい名前は、後回しで十分です。「不快、強め」と置けるだけでも、扱いやすさが変わります。
  • 感情語のリストを借りる。ゼロから言葉を探すのは難しい作業です。感情語は、そのための道具です。自分で作らなくても、既にあるものを借りて使えます。厚生労働省のこころの耳も、セルフケアの起点を「自らのストレスに気づくこと」と置いています。

よく勧められる方法に、気持ちを書き出すというものがあります。ただ、これは研究結果が割れている領域です。1998 年のメタ分析では一定の効果が報告された一方で、30 件のランダム化比較試験をまとめた 2006 年のメタ分析では、心理面でも身体面でも有意な効果は確認されていません。合う方には合う、という程度に受け取っておくのが正確です。

ただし、消耗が深いときは、言葉を探す作業そのものが重くのしかかります。疲れが抜けない状態が続いているなら、練習より先に休むほうが順番として自然です。

うまく言えた日と、何も出てこない日があってかまいません。細かさは、日によって揺れます。

うまく説明できないまま、相談してもいいのでしょうか

はい、そのままで大丈夫です。感情を整理してから相談する、という順番である必要はありません。むしろ「よくわからない」と言えること自体が、自分の状態についての正確な報告です。相談は、そこから始められます。

カウンセリングを考えても、「何を話せばいいかわからない」で止まってしまう方は多くいます。ただ、専門家の側は、整理されていない話から始めることに慣れています。「聞かれても、答えが出てこないんです」。その一文が、そのまま出発点になります。

「私の悩みなんて軽いほうだ」と考えて、ためらう方もいます。けれど相談していいかどうかは、つらさの大きさでは決まりません。何かを選ぶとき、自分がどうしたいのかが手元にないのは、静かに消耗します。

感情に名前がつかないのは、感受性が欠けているからではありません。名前をつける機会が、まだ足りていないだけのこともあります。

今日、胸のあたりに何か残っているなら。それに名前がつくのは、もう少し先でもかまわない。

Frequently Asked

よくある質問

  • 自分の感情がわからないのは、病気ですか?

    アレキシサイミア(失感情症)そのものは、診断名ではありません。性格の一側面として、程度の幅で捉えられる特性です。日本の一般住民 927 名を対象にした調査では、TAS-20 という尺度で「傾向が強いほう」と判定された方が 7.8%、フィンランドの調査では 13% でした。おおよそ 10 人に 1 人前後という規模です。ただし、うつや適応障害と重なることは多く報告されています。ある時期を境に「何も感じない」が始まり、睡眠や食欲の変化を伴っているようであれば、そちらのほうに手当てが必要な場合があります。

  • 「何も感じない」のと「感情がわからない」は違いますか?

    重なる部分はありますが、成り立ちが違います。「感情がわからない」は、感情そのものは動いているのに、それに気づいて言葉にする過程が動きにくい状態を指すことが多い言葉です。一方で「何も感じない」は、うつの経過のなかで、喜びや興味そのものが薄れているときにも起こります。見分けの手がかりは時間経過です。もともと感じにくかったのか、ある時期から急に感じなくなったのか。後者であれば、環境や心身の不調のほうを疑ってみる価値があります。

  • 感情がわからないのは、育った家庭のせいですか?

    育った環境は関係しますが、「親のせい」と「親子関係の影響」は同じではありません。24 件の研究をまとめた 2024 年のメタ分析では、子ども時代の逆境体験と失感情の傾向のあいだに関連が報告されています。内訳では、身体的な虐待よりも情緒的ネグレクト、つまり感情に応じてもらえなかった経験のほうが強く関連していました。ただ、これは誰かを責めるための話ではありません。自分の感じ方がどこから来ているのかを知ることは、これからの扱い方を取り戻す作業です。

  • 男性のほうが多いというのは本当ですか?

    複数の一般住民調査で、性別による差が報告されています。フィンランドの一般住民 1,285 名を対象にした調査で「傾向が強いほう」に入ったのは、男性が 17%、女性が 10% でした。男性のおよそ 6 人に 1 人という数字です。「自分の感情がわからない」は繊細さの話として語られがちですが、実際には、感情を口にする機会が少ないまま過ごしてきた層に多く見られます。会議では的確に話せるのに、家で「今日どうだった?」と聞かれると答えに詰まる。そうした心当たりも、この範囲に入ります。

  • どのくらい続いたら、相談を考えたほうがいいですか?

    期間だけで線を引くのは難しいのですが、目安は三つあります。もともと感じにくかったのか、ある時期から感じなくなったのか。感じにくいのは特定の場面だけか、生活全体か。眠れない、食べられない、体重が落ちたなどの変化を伴っているか。後者に近いほど、専門家に相談する意味が大きくなります。「何を話せばいいかわからない」で止まってしまう方は多いのですが、専門家は整理された話を待っているわけではありません。「聞かれても、答えが出てこないんです」が、そのまま出発点になります。

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Colophon / 執筆と監修

Written by

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心理学の知見を、読む人の日常に近い言葉に翻訳して届けるチームです。記事は公認心理師・臨床心理士の監修のもとで制作していきます。

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